「佐伯、」



睨むようにでも佐伯が目を合わせてくると、俺はすかさず話を切り出した。




「俺に本当のこと教えてよ」




「そんなのとっくにあの子に聞いたんでしょっ だからここに来てあたしを」


「蕾からは聞いてない。佐伯本人からちゃんと聞こうと思って」



「…」



「嘘じゃないから。」




佐伯は視線を落とすと、さっきまでの勢いをなくした。

俺はそのタイミングで掴んでいた両腕を静かに離した。




「それに、佐伯にありがとうって言いたくてここまで来たんだ。」



「なによ、それ」





佐伯は口を尖らせた。表面的には落ち着いたように見えるが、内心はまだ不満だらけのようだった。



ふと、いつかのあの誤解の時のことを思い出す。
餡まんを地面に投げつけた時の佐伯、怖かったなあって。


それから、蕾に拒絶されて俺が脱け殻みたいだった時、慰めてくれたぬくもりの優しさも思い出した。





「たとえ誤解のせいでそうなったんだとしても、それは初めて言われたことだったから。
どんな嫌なやつでも、初めて自分を好きって言ってくれた人だから。」




誤解が生んだとんでもない出来事の時に抱いた感情を、あの時は口に出さなかったけど、今はそれを佐伯に伝えておきたかった。





「ありがとう。」