蕾の部屋のカーテンが微かに揺れたように見えて、窓を開けようと鍵に手をかけた。
金具を引っかけて鍵をかけるそれは開けっぱなしの状態で、昨日相当慌てていたらしい自分が可笑しくなった。
向かいの蕾がカーテンを開くより少し早く俺は窓を開けた。
蕾が姿を現すと、ごく自然に視線が交わる。
『おはよ』って口を大袈裟に動かして言うと、窓越しの蕾にも分かったようで、向こうも同じように口を動かして微笑んだ。
蕾が窓を開けると、もう二人の間にへただりはなくなった。
そして俺はもう一度言う。
「おはよ」
蕾も白い息を吐きつつ、
「おはよ。寒いね。」
いつもの調子で言った。
「寒いな。学校までまだ少し時間あるけど、どうする?」
ベランダの先まで出て来た蕾に聞いてみる。鼻先が少し赤く染まっているのが見えた。
「…サク」
蕾はふいに俺の名前を呼ぶと、
「マユナに会いに行こう」
と、前から決めていたかのように迷わずそれを口にした。
俺も別に動揺したりもせず、「うん」と頷いて見せた。