それからしばらく抱き締め合った。
髪から香る淡い香りに誘われて、ごく自然に唇を重ねる。
背の低い蕾に合わせて、少し身を屈めて。
これ以上力を入れたら壊れてしまいそうな華奢な肢体を離したくなくて、長い長いキスをしたまま佇んでいた。
唇を離してゆるいウェーブの髪に指を絡ませると、蕾の首筋に指先が当たる。
蕾は首をすくめると、大きな瞳で俺を見上げてきた。
雷の音はもう遠くなっていたけれど、その光はまだここまで届いている。
ピカッと外が明るくなる度に、蕾の瞳はうるうると輝いた。
「…サク」
言って、少しためらったのか伏し目がちになる蕾。
足元に落ちた視線がまた上がって来ると、蕾は小さく呟いた。
「あの時、嫌じゃなかったよ」
「え…?」
「サクとならいいと思った」
「あの時って、あの…」
「…うん。 一緒に大人になろう、サク。」
蕾は真っ直ぐに俺を見つめたままそう言った。
その眼差しに一切のいやらしさはなくて、ただただ純粋で。
蕾に触れることが一瞬ためらわるるほど澄んでいて綺麗だった。