「うん、でも行ってくる」



そう言って今度こそ走り出そうとした。
が、腕をがっちり掴まれ、またもや妨害される。




「やめとけ。 あいつが考えた末にこうしたことなんだから。 今さら会わないほうがいい。」




「なんで、そんなのやだ」



その人が言ったことを即座に突っぱねると、よく日焼けした顔がむっとした表情になった。





「じゃぁ逆に聞くけど、なんで今さら会いに行くんだよ。」





短髪の色がもし黒じゃなくて金だったら、たぶんもっと迫力が増すだろう。

黒髪でも十分に怖いその人の目を見つめて、あたしはまたすぐに答えた。





「会いたいから、会いに行くんだよ。」





むすっとした表情が一変し、その人はぽかんと口を開けて拍子抜けしたような顔をした。





「今のあたしにはサクの記憶しかないのっ」





「え」、とその人。




「まさか名取、記憶が、」




なんだか分からないが、あたしの言葉に動揺したらしく。
あたしの腕を掴んでいたその人の手の力が緩む。



考えるより早く体が動いた。
その人の手から逃れ、どこからか流れ込んできた風に背中を押されるようにあたしは走り出した。






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