「…佐伯?」
今度は疑問符をしっかりと付けてもう一度呼ぶと、佐伯はようやく口を開いく。
「…咲之助、あたし、妊娠したの」
凛としたその声音に気を取られて、一瞬言葉の意味が理解できなかった。
「赤ちゃんがここにいるのよ。」
佐伯は、腹部に軽く触れるぐらいだった俺の手の、力なく曲がっていた指を伸ばして完全に開かせ、もっとしっかりと当てがった。
そしてまっすぐに俺を見つめると。
「堕ろすつもりないから」
と、きっぱりした口調で言いきった。
「え…、いつ…」
そんな、妊娠するようなことしたを覚えがなくて。
停止寸前の思考を必死で駆け巡らせ記憶を探る。
「…一回だけ。一回だけ咲之助気失った時あったでしょ。その時。」
佐伯のそれを聞き、ぴたりと当てはまる記憶が一つだけ見つかった。
蕾のことでダメになっていたあの時だ―…。