「―ねぇ、じゃぁ最後に言わせて」



声が聞こえると微かに香水が香り、佐伯が顔を上げたのが分かった。




目線を先に上げ、ゆっくりと顔も引き上げる。


泣き叫んだりとか、怒って暴れだしたりだとか。
当然それなりの反応は覚悟していたのだが、目に入ったのは冷静に俺を見据えている佐伯の瞳だった。


逆光のせいか、それはいつもより深みのある黒色をしていて。

見ているだけでも何かを語りかけられているように感じた。






「佐伯…」





何かを"伝えたい"と言う意思は感じられるものの、動く気配のない佐伯のつやつやした唇。



気付けば無意識に自分から口を開いていた。


しかし続ける言葉はなくて、またすぐに辺りは静まり返った。





ついと、佐伯の手が動いてふいにその動きを追うと、それは俺の手首を掴んだ。





「なに…」



疑問符を付ける暇もなく、半端な問いかけをした俺には構わず、佐伯は掴んだ俺の手を自身の腹部に当てた。




「え、ちょっと…」




ブラウス越しに触れた手にぬくもりが伝わるのにそう時間はかからなかった。



佐伯の体温がじんわりと伝わり、心臓からは距離がある部位に触れているにも関わらずどくんどくんと鼓動を感じた。