「咲之助遅いよ~っ」
だいぶ聞きなれた甲高い声を上げながら、佐伯が駆けよってきた。
俺は後ろ手でドアを閉め、抱きついて来ようとする佐伯をさりげなく避ける。
「も~ 相変わらずつれないんだから~」
佐伯は明らかに計算づくな上目使いをして、口を尖らせた。
「だって、付き合ってないし」
どう話を切り出すか考えていたが、意外とすぐに本題へ入れそうな流れになった。
素っ気なく言った俺に対し、佐伯の笑顔が強張る。
「…付き合ってないけど、もう付き合ってるのと同じじゃない?」
何のために呼び出されたのか察したようで、佐伯は慎重な面持ちで言った。
「悪いけど、同じじゃない。 俺たちは付き合ってないよ。」
だんだんとうつ向いていく佐伯。
その目線が完全に下に落ちる前に俺は答えた。
「蕾ちゃんは観月と付き合ってるし、だからもう咲之助は必要とされてないんだよ?」
佐伯は、最近俺がずっと恐れていたことを口にした。
"必要ない"
蕾にそう言われるのが怖くて、長い間ずっと動けずにいた。
でも、そんなこと思ってたらどんどん気持ちは積もっていって、苦しくて。
だからもう何言われてもいいから、どんなに傷ついてもいいから、全力で蕾を取り戻そうと決めたんだ。