5歩進んでは3歩戻る。
そうやって2歩ずつ進んで行くと、ついに図書室のドアの前まで来てしまった。
そっと、ドアにあるガラスの窓の隅っこから中を覗くと。
7列ほど並んだ長テーブルのちょうど真ん中の列に佐伯がいて、化粧品をおっぴろげていた。
マスカラを塗ってはビューラーとかいうやつでまつ毛を持ち上げて。
鏡を覗き込んでは指で瞼を引き上げ、ペンみたいなので目の回りを黒く塗っている。
その時の顔と言ったら、やばいったらない。
なんだかますます入りずらくなり、すごい形相で化粧に没頭している佐伯をしばらく眺めている。
すると、何度目かの鏡チェックをしていた佐伯がふいに顔を上げた。
やばいと思った時には遅くて、化粧を直し終えて目力MAXの佐伯とばっちり目が合ってしまった。
「あっ 咲之助っ」
…バレた。
ガタンと言う音を立てて佐伯は椅子から立ち上がる。
笑顔全開のその顔を見て、俺は苦笑いをしつつ仕方なくドアを開けた。