ズボンのポケットに手を突っ込んで葉山の隣に立つと。
校庭の隅の葉が茶色くなり始めた木々の下に、それを見上げている蕾が見えた。
空が一番広く見える季節、蕾はその青さに吸い込まれてしまいそうで。
今すぐ駆けよってあの細い肩に手を置き、何か幸せな言葉をかけてやりたかった。
そんな言葉、今すぐには思いつかないけれど。
気付けばポケットから手を出して手すりから身を乗り出していた。
「好きなやつと一緒にいることって、なんでこんなに難しいんだろ」
ただそばにいたいだけなのに。うまくいかない。
大切なことほど口に出来ないように、大切な人にほど気持ちを伝えられない。
俺がおもむろに呟くと、葉山は「うん」とだけ言った。
風が俺たちの間を通り抜け、ワイシャツを膨らませる。
まだ夏が続いていると思っていたのに、その風はなんだかとても寂しくて。
"夏は終わったんだ"と言われた気がした。
やがて観月が走ってきて、蕾に何か飲み物のような物を渡し、二人は手を繋いで歩き出した。
その光景を何の表情も浮かべずに眺めていると。
確かに俺の言葉と心は食い違っているなと思った。
もし嘘のない気持ちを口に出せていたら、こんなふうに涙を流せないほど苦しい思いはしなくて済んだのだろうか。