"答えたらんねえ"なんて言ったもんだから、葉山はきっと騒ぎ出すのだろう。
そう思い覚悟していたのだが。
ジャリッと言う音が聞こえると、葉山の気配が少し遠ざかった。
どうしたのかと顔を上げると、葉山は立ち上がって屋上の手すりに手を伸ばした。
「蕾ちゃんのこと欲しくないの?」
「は…?」
また突飛で抽象的な質問。
「人が傷つかないようにって言う気持ちは大事だけど、それじゃぁ橋本くんが辛すぎるでしょ」
「俺は別に…」
「このまま自分に嘘つき続けたら、心がバラバラになっちゃうよ」
葉山がこちらを振り返って、久々にまともな表情を見せる。
少し微笑んでいるその顔は、ふつうに悲しみをたたえるよりもひどく傷ついているように見えた。
「俺は、大丈夫なんだよ」
本当に聞いて欲しい何かは言えずに、我慢して押さえ込んで、眩しい目をして苦しいという感情を誤魔化した。
「そっか」
葉山はなおも憂いを帯びた顔で微笑んで。
ひらひらと手招きした。
どうやら隣に来いと言っているようだったので、俺は地面から立ち上がって屋上の手すりに近寄った。