「え、何?」



気が付けば首まわりに大量の汗をかいていた。
手の甲でテキトーに拭いながらそう聞くと。





「俺、ちょっと前に、蕾ちゃんより橋本くんのほうが少し先に生まれたんだよって背中押してあげたよね?」





と、借り物競争ネタは一段落したようで、葉山は落ち着きを取り戻していた。





「元気付けてあげたのに、なんでまだ佐伯と付き合ってんの?」





葉山は大好きだというバナナジュースを口元に持っていきながら、何気ない顔でそう聞いてくる。



その顔にちょっとむっとして、


「付き合ってねーし」


って投げやりに答えた。




「付き合ってないのっ!? あんなにベタベタしてるくせにっ!?」




これまた騒がしい反応。何か言う度にこんなリアクションされるとだんだん嫌気がさしてくる。




「佐伯が勝手にベタベタしてくんだよ」



言うと、阿宮がふいに立ち上がった。

黒髪がキラキラと光って、眩しくて見上げていられない。

目を細めて「どうしたんだよ」と聞こうとすると。





「そういう曖昧な関係ならきっぱり縁切ったほうがいいと思う。 佐伯のためにも、お前自身のためにも」



そう言うと、阿宮は「ごちそうさま」と言いつつパンのゴミをポケットに突っ込み、屋上から校内へ入っていってしまった。