「ひどっ 橋本くんが最近テンション低すぎなんだよっ」




葉山がズイッと迫ってきたので、それを避けながらまたパンをかじる。


阿宮の方に体を倒しながら避難していると、




「つか、観月とお前の幼なじみって付き合ってんの?」




ギャーギャーうるさい葉山なんか眼中にないみたいで、阿宮は相変わらずマイペースな調子でそう言った。




観月アヤと言えば、夏休みが終わると同時に観月フミとして学校に来るようになった。



今まで女子の制服を着ていたのがいきなり男の格好になったものだから、それ相応の混乱が生じたものの、なんだかけっこうすぐに馴染んでいた。





「付き合ってはないと思うけど…」





いや、もしかしたら付き合っているのかもしれない。

最近あの二人はよく一緒に帰っているし、それに夏休みのあのキスは…






「橋本くん」




葉山の声にはっと我に返ると。
ひどく暑い日の胸が締め付けられるようなあの光景は幻影となって消えていった。