今思えば、あの時寝返りなんて打たなければよかった。ついでに狸寝入りも。
目を開いて起き上がって、先だけが触れている唇をもっとくっつけられたなら。
そんな勇気があったなら、こんなことにはならなかったのかもしれない。
夏に旅行に行き、蕾に逃げられ、無理矢理押し倒してまた逃げられ。
今度は少し俺のほうが蕾から逃げて他の女と仲良くしてみたり。
それでも思いを完全に断ち切ることは出来ず、蕾の苦手な数学の補習にも顔を出した。
せっかく目が合ったのに、何も言えず。その後を追うこともできなかった。
それに。
見てしまった。
実は男だったと告白してる観月アヤとそれを聞いている蕾を。
蕾とあんなに仲良くしてたのが実は男だったなんて、反則だと思った。
いきなりの暴露話に半信半疑のまま壁際に潜んで様子を伺っていたら。
観月アヤ、いや、観月フミはあの場を離れようとした蕾を抱き寄せたのだ。
まるで蕾の心の内が分かるかのように、男の俺が聞いても感動するような言葉をフミは発する。
そしてその言葉は、ツギハギだらけだった蕾の心を見事に掴んだようだった。
蕾は顔を上げると、観月フミに言われるままに目を閉じて行き。
それから…