さっきよりもまた少し離れた場所から、観月のその声は聞こえた。
「咲之助なんかやめろよ」
それはほとんど振り返るのと同時で。
「咲之助なんかやめて、俺のとこに来い」
瞬きの隙も息つく暇もなく、気付いた時には再び観月の腕の中に抱き寄せられていた。
観月が咲之助を呼び捨てしたとこからもうわけが分からなくて、突然の告白には動揺し過ぎて声も出なかった。
「泣かせないし、苦しませないし、蕾の見たくないものはもう見せない。」
いつも先々のことを考えていて、余裕そうな観月。
なのに今はそんな余裕の欠片もなくて。
きっとこの告白の言葉は、ほんとにたった今この場で心から溢れ出したものなのだろう。
「いろいろな不幸から蕾を守るから、どうか俺のそばに…いてください」
観月の声は語尾に行くつれ優しい響きになっていく。
包み込むような大きな何かを感じて。
思わず、観月の胸に隙間もないほどに顔を押し付けた。
あたしがずっと欲しかった言葉はこれだったのかもしれないって。
大きな力で包み込んで欲しかったのかもしれないって。そう思った。