「困る…ここ出来ないと今日帰してもらえない…」
問題集の1ページ目の問2。
なんでこんな始めから難題を出題するのか。
この問題集の意図が見えない。
これは危機だ。
とんでもない危機だ。
帰れないんじゃなくて、帰させてもらえない、だ。
もう、終りだ…。
もはや絶体絶命かと思われたその時だった。
「橋本ー、問2出来た?」
「は? どこの?」
「1ページ目の…って、お前もう3ページ目じゃんっ」
教室の真ん中辺りの席からそんな声が聞こえてきた。
補習はクラス関係なくごちゃまぜでやるから、咲之助は今同じ教室内にいる。
そうだ。
咲之助がいたんだ。
サッカーと数学だけが取り柄の咲之助が。
だけど、数学得意なのになんで補習に出ているんだろう。
不得意な科目だけ出ればいいはずなのに。
「咲之助くん数学得意なんだ?」
観月が小声で耳打ちしてくる。
「うん。数学だけね。」
"だけ"を強調して言うと、ふいに咲之助の顔がこっちを向いたのを視界の隅でとらえた。