まだ誰も起きていない静まり返った蕾の家を出て駅へ向かった。



この時間帯のこの町は初めて歩く。


東の山がキラキラと輝いて、空は青くなり始めている。
今日も暑くなりそうな予感がした。





そういえば、「駅に9時」ってあいつは言っていたけれど。
駅とはどこの駅のことだろうか。



あのまま自分のマンションにいれば、「駅」という言葉が指すのはあの町の駅だけだったのに。

今は隣町にいるし、しかもあいつがよく使うのはこっちの駅。




まったく、こんな些細なことでもあたしを悩ますのか、あの男は。




ケータイは部屋に放り投げてきてしまったし、連絡しようがない。



こんな時にあいつの顔を思い出すと、あまりにも脱力系でちょっとイラッとする。



出会って間もない時から今までずっと、変わらずに憎たらしい。




きっと。あれだ。
可愛さあまって憎さ100倍ってやつ。