「アヤ、手繋いで寝よ」
って言われて、蕾の隣に横になったのは数時間ぐらい前のこと。
もう夜明けが近づいて、カーテンの隙間から薄暗い光がほのかに差し込んでいる。
蕾の規則正しい寝息を間近に感じながら、うとうとすることもなく夜を過ごした。
目が冴えてまったく眠くない。
そろそろ背中が痛くなってきている。寝疲れてしまったようだ。
寝返りを打とうにも蕾と繋いだ手が離れてしまいそうで出来ない。
なんとかして横を向こうとすると、蕾の手に力がこもる。
そしてぎゅって握られたかと思えば。
「…サク」
目を閉じたままの蕾の口から出たのは幼なじみの名前。
どうやら隣にいるのを咲之助くんと勘違いしているようだ。
あたしはその手を握り返すことはせず、蕾の手の力がゆるんで来たところでゆっくりと離した。
「ごめんね」
そう言った声は冬の白い息のように光に溶けて、余韻など残さずにすぐに消えていった。