小さい頃は足の長さが足りなくて、自分の部屋の窓から蕾の部屋のベランダへ飛び移ることが出来なかった。
けど今なら、部屋の隅から助走を付ければ届かない距離ではない。
窓を閉めようとしている蕾めがけてベランダへ飛んで、鍵を掛けられる寸前で部屋の中に転がり込んだ。
カーテンをバサバサと投げつけて俺のこれ以上の侵入を阻もうとする蕾。
「やめろっ」
そんな障害物を払いのけながら前に進んで、ベッドの方に逃げて行く蕾を呼んだ。
「蕾―っ」
蕾は俺の声にはまったく振り返らず、ベッドの上に立つと抱えた枕をぶんぶん振り回し始めた。
「やめろってばっ」
勝手に離れて行ったり、まだ何かあるみたいに俺の部屋なんか見てたり。
蕾の矛盾した行動にいらいらした。
枕を操る根元である蕾の両手を掴み、それでもまだなお抵抗する蕾を力任せにベッドに押し倒した。
掛布団やらシーツの端が一瞬ふわっと舞い上がる。
それが落ち着く頃には、蕾も大人しくなっていた。
「なんで海行った時いなくなったんだよっ」
その問いに蕾は目を逸らす。