「にゃ…っ」
いきなり変な寝言を言う咲之助。
指が動いた時よりも驚いて、後ろに下がると壁に頭をぶち当てた。
声にならない声を上げて、痛みに耐える。
じんじんする後頭部をさすりながら、再び咲之助に近寄って。
何も知らないですやすやと寝ているその憎たらしい頬をつねった。
「んが」
って、また変な声を出して、すぐに何事もなかったかのように規則的な寝息を立てる。
ざまあみろと、一人でせせら笑って見るものの。
心からそう思えない自分がいた。
「サク、あたし病気なんだよ」
部屋の闇に溶けてしまうようなごく静かな声で言う。
「記憶は消えちゃうし、赤ちゃんも生めないかもしれないんだよ」
咲之助が起きてたら絶対に言えない秘密を、一人語る。
近くにいるのにこの声は届いていないんだと思うと、とても切ない。
「サク、ねぇ聞いてる?」
聞こえてなくていいのだ。
咲之助は知らなくていい。
大切な人だから、メモリーカードになんかしたくないもん。