「俺は、」
咲之助は観念したように一つため息をついた。
「うん」
やっぱり聞きたくないな、と思う。
聞いたら記憶のことも赤ちゃんが生めないかもってことも、あたし全部話しちゃうだろうから。
「気づくの遅かったけど、たぶんずっと前から、」
咲之助はあたしの肩の辺りを見つめつつ、もう動揺してないみたいなはっきりした口調で言葉をつむぐ。
「俺さ、蕾が…」
「サク」
と。
言わせようとしておきながら咲之助の言葉を制した。
「え…」
口を開けたまま唖然と目を見開く咲之助。
そして目が合って、
「もう何も言わないで」
とあたしは一言だけぽつりと呟いた。
それは波の音に混じって、重たい意味を持つ言葉がいくらか爽やかに聞こえた。
「もうあんなこともしないで」
自分が何を言ってるのか、おそらく自分でもよく分かってない。
後で後悔するなんてことも、きっとまだ分かってなかった。
熱い風が二人を通り過ぎていく。
咲之助がうつ向いた瞬間、ほんの一瞬だけ寂しそうな目が見えた。