それに。
それに、これから経験したことはもう記憶に残らないと言われた。
つまり中3から高1の前半ぐらいまでの思い出しか、あたしには残らないと言うことだろう。
まだその症状ははっきりと意識できるほどひどくはないけど。
一日一日が終わる度に、眠りにつくのが怖くてたまらない。
もし明日起きて昨日のことを何もかも忘れていたら。
もし明日起きて、咲之助との他愛ない出来事を忘れていたら。
昨日を思い返して怒ることも、泣くことも、悩むことも、反省することも、思い出し笑いも、ありがとうを言うことも、出来ないのだ。
そんなことを思うとどうしようもなく悲しくて、早く目が覚めてしまう。
寝ぼすけでしょうがなかったあたしを、毎朝叩き起こしてくれた咲之助。
毎日の習慣を壊したくなくて、今はわざと寝てるふりして起こしてもらってる。
まだ暗いうちに目覚めてしまうとそれがすごく虚しくて。
ベランダに出て咲之助の部屋を眺めていた。
今朝もそう。
カーテンを静かに開けて、いつものように咲之助にバレないようにひっそりとベランダへと出た。