「へへ、ユウセンジュンイってものがあるんだーだってさ。大人ってヤダね」
咲之助の部屋にはベランダは付いてなくて。
窓の縁に張り付いて手をぶらぶらさせながら咲之助はそう言った。
「…大人になりたくないね。」
咲之助を叩いたおじさんの気も知れず、あたしもそう呟く。
「うん、なりたくない。 だいじなもんに順位なんか付ける大人になんかなりたくない。」
「あたしも」
そう言った二人の声は静かに夜空に溶けて。
刹那、頭上をいくつかの流れ星が流れた。
その夜は、いつもよりも星が綺麗でたくさん輝いていて。
それが俗に言う流星群だったと知ったのは少し経ってから。
まだ何にも知らなかったあたしたちはラッキーな日だと思い込み、無数の流れ星に何度も願い事をした。
大人になりたくない。
なりたくないです。
思い返せば、この時からあたしの時間は止まってしまったのかもしれない。
一人で置いてけぼりにされるなんて知らずに。
ずっと子どものままでいられると、少しも疑わずに。
咲之助はいつでもそばにいるんだと、根拠もなく信じていた―…