そんな夜のこと。
そろそろ寝ようと部屋に行くと、普通に喋ってるには大きすぎる声が外から聞こえてきた。


くぐもっていて何て言ってるのか分からないけど、なんだか怒っているような声だ。




ベランダへ通じるドアのカーテンをそっと少しだけ開けてみる。
すると、見えたのは、なぜか怒っている咲之助のお父さんと、うつ向いている咲之助の姿。




何事かと、こっそりベランダに出てしゃがみこみ、聞き耳を立てた。




『咲之助、なんで休んだんだって聞いてるんだ』


『それはぁ…』


『サッカー嫌いになったのか?』


『ちがうよ…』




話し相手になってくれた時とは打って変わって咲之助は頼りない声で言う。





『サッカー』
『休んだ』

二つの単語が頭に引っかかった。

そして今目の前で怒られている咲之助。



なんでこんなことになっているのか、道を通りかかった時に咲之助が手にしていたサッカーボールを思い出すと全てが繋がった。




あの時サッカーの練習に行くんだったこと。
あたしに付き合ってて無断で休んでしまったこと。




咲之助を問い詰めるおじさんの声が聞こえる度、自分が直接怒られる時よりも胸が痛くて。
「ごめんね」と、心のなかで繰り返しながら声を殺して泣いた。