それから薄暗くなってお母さんが帰って来るまで、咲之助はずっと話し相手になってくれた。




お母さんが帰って来るのを一人で待っていたら、きっと時間が過ぎるのを長く感じただろう。

でも、咲之助と話している時間はすごくすごく短く感じた。


咲之助が家に帰るってなった時には、名残惜しくて、「明日も一緒に学校行こうね」って念を押すように何回も言ったほどだ。




「おう、また明日」



って、それだけ言って咲之助は帰って行った。




「お母さんっ あたしサクと結婚するっ」




サッカーボールを蹴りながら帰って行く後ろ姿を見送りながら、隣にいたお母さんにそう言うと。

お母さんは一瞬は驚いていたけれど、「そっか」って優しく笑ってくれた。




その時の気持ちとしては、どきどきしたと言うより、くすぐったい感じがした。



たぶんこれがあたしの初恋。

まだ小さかったあの背中に、初めての"好き"を覚えたんだ。