「ううん、すぐ帰って来るのっ でも寂しいっ 寂しいよお母さーんっ」
咲之助に向かって『お母さん』なんて叫んで。
周りから見れば、咲之助はおままごとでお母さん役をやらされている男の子に見えたかもしれない。
今思えば笑えることなんだけど、あの時はあたしも咲之助も真剣でかなり深刻そうな顔をしていたと思う。
「じゃぁ、お母さんが帰ってくるまで俺が一緒にいるよ」
まだ子どもだったから、そんなセリフも恥ずかしがることなく言った咲之助。
こんなに頼もしいことを言ってくれる男の子だったんだって、この時初めて知ったんだ。
「ありがとおサクっ ありがとお」
言いながら、寂しい涙とはまた違う涙が溢れたことは、小さかったから気付けなかった。
たぶんあの時の涙は、優しくしてくれたことが嬉しくて出たんだろう。