——そして、その日は突然訪れた。



少しお腹が膨らんできていた葉月さんは『子供がいる友達の家に出産準備の相談をしに行って来る』と珍しく夕方から家を空けた。


オレは家庭教師のバイトから帰って来た兄貴と二人で夕食をとり、その後TVゲームをして遊んでいた。





あの日の兄貴の顔は、今でも忘れられない。




『誰が』


『どうして』


『何処に』



これまで目にした事がないほど険しい表情で受話器に向かって怒鳴っているかと思うと、荒々しく電話を切り、ぽかんとそれを眺めていたオレの手を掴んで家を飛び出した。


いつもは安全運転を心掛けて滅多に無駄なスピードは出さない主義の兄貴が、何かにとり憑かれたように車を走らせる姿をオレは脅えた目で見ていた記憶がある。


葉月さんに何かあったんだ、と幼い心に直感的に悟った。




とてつもなく恐ろしくて、悲しい、何かが。