まあ、それはともかく問題は彼らの結婚だ。

葉月さんは22歳で図書館司書としてすでに社会に出ていたが、比べて兄貴はと言うと理系大学に通う齢19の青二才だった。

うちの親父は放任主義だし、兄貴への信頼は絶大なものだったからいいとして、葉月さんの両親は、交際にすらいい顔をしていなかった。



一人娘の妊娠は寝耳に水の出来事だっただろう。



だが、二人の気持ちはそんな障害によって壊れてしまうような生半可なものではなかった。


彼らは本気で愛し合っていたのだ。


子供だったオレの目から見ても、兄貴の世界は春の光に包まれているようだった。


鬼神の如く怒り狂った葉月さんの父に、しこたま殴られた顔を彼女に手当てしてもらいながらも、兄貴は本当に幸せそうに笑っていた。



2ヶ月に渡る二人の必死の説得に折れたのか、葉月さんの両親はとうとう兄貴との結婚に同意し、彼女の姓は『瀬尾』に変わった。


もちろんオレも心から喜び、二人の幸せを祝福した。



葉月さんがうちに引っ越してきて『家族』が増えた事が嬉しかったし、綺麗で心の優しい『おねえさん』が一日中家にいてくれるから、鍵っ子のレッテルを払拭し、毎日誇らしい気持ちで帰宅することができたのだ。