母親を知らないオレにとっては、まさに兄貴がその対象だった。


すでにアメリカと日本を行ったり来たりしていた親父に代わって、兄貴はその生活の殆どをオレの為に費やし、手塩にかけて育ててくれた。


それはもう目に入れても痛くない程の可愛がりようで、弟を極度のブラコンにしてしまうのも無理からぬ事だった。



だからオレは、紹介された当初、須藤葉月さんのことが嫌いだった。


何の事は無い。ただの子供の焼きもちだ。


『大好きな兄ちゃん』を奪われた腹いせに、彼女の持ち物を隠したり、覚えたての悪口を浴びせたりして出来る限りの反抗を試みた。


オレの事を嫌いになって、兄貴から離れて欲しいと思ったのだ。