「でもほんとびっくりしちゃった。お兄さんがいるのは知ってたけど、双子並にそっくりなんだもん」


オレ達兄弟は年こそ10歳離れているが、顔立ち、髪質、肌の色や声に至るまで、身長以外は判を捺したようにそっくりな見てくれで、外を歩けば人違いで声をかけられることもしょっちゅうだ。

母は酷い難産の末オレの命と引き換えにこの世を去ってしまったから、写真でしか確認する術はないが、オレ達はどう見ても母似で、親戚連中には

『愁大と愁路は年の離れた双子』

とよく面白がられていた。



「男の人には失礼かもしれないけど、キレイっていうか、高貴っていうか、神秘的っていうか」
「んなほめんなよ。照れるだろ」
「なんで愁路くんが照れるのよ?わたしはお兄さんのことを言ったの」
「てめ。さっき『双子並にそっくりー』って言ったばっかじゃねーか」
「んーでもなんか雰囲気?が違うのよ。うまく言えないけど」
「年だろ、年。兄貴も27だしな」
「とても20代後半には見えないよね。お兄さんのもほうが愁路くんより小さいよね?170cmくらい?なんか・・・可愛らしくて」

兄貴はキレイで高貴で神秘的で可愛らしいのか。

じゃあ同じ顔のオレは一体なんなんだ。

「・・・ねぇ・・・愁路くん」

ふいに声のトーンを変えたコウコは、伏目がちに桜色のくちびるを開く。


「お兄さんて・・・こ、恋・・・」


「おーいお前ら席につけー!」


地声のデカさは学校随一、担任で数学教師の工藤が絶妙なタイミングで乱入してきた。
コウコは小声であとで、と言い、急いで席に戻った。
その5分後、制服のポケットの中で携帯が振動した。

コウコからのメールだ。


『お兄さんて、モテそうだよね。恋人とかいるの?』


オレは既に用意していた答えを素早く打ち込み、送信した。

『さあ。知らないな』