「愁路くん、しゅうじくんっ」


ほーら。来た来た。


オレが教室に入ったとたん、待ってましたとばかりに、ストレートの髪を揺らしながらコウコが駆け寄って来た。

チビで童顔だからまるで仔犬が転がってくるようにも見える。

「あのね、昨日ね」
「兄貴に会ったんだって?」

スポーツバッグから教材を取り出し、無造作に机の中に突っ込んだ。

「あ、きいたの?お兄さんなんか言ってた?」

オレの机に手を突いて目をキラキラさせる。

「別に?『世間は狭いな』とかなんとか」
「他には?」
「なんだよ、他って」

妙に食い下がるコウコを見上げる。

彼女は柄にもなくもじもじと目を伏せ、

「だから・・・『あの子、アホみたいに口あけて突っ立ってた』とか」
「あー言ってた」
「うそっ」

可笑しいくらい傷ついた顔をする。

「うそ。兄貴はそんなこといわねーよ」
「・・・ほんとに?」
「ほんとに」
「よかったぁ」

ドキッ。


・・・ん?なんだいまの「ドキッ」って。


手のひらで胸を押さえ、軽くさすってみる。

どうしたオレの心臓。


こいつの笑顔なんて、毎日見てんじゃねーか。