ーーだがオレは知っている。


兄貴は憎んでいる。


自分を裏切った葉月さんではなく、彼女の抱えていた大きな苦しみに気がつかなかった自身を激しく憎悪している。


オレも少しは人の気持ちというものを汲みとれる年齢になったと思う。

人間の弱さ、脆さを17年分、学んできたつもりだ。



葉月さんはただ、どうしようもなく、弱かったのだ。




洗いざらい全部告白したところで、兄貴の葉月さんと、そのお腹の子供に対する愛情は微塵も変化する事はなかっただろう。


オレの兄貴とは、瀬尾愁大とはそういう男だ。



けれど、夫を信じきれない心を、情けない、と切って捨てるには、彼女が抱えていた秘密は重すぎた。


日に日に膨らんでいく不安に怯え、彼女は何を考えて毎日を過ごしていたのか、成長した今のオレになら、分かる気がする。



オレがもし葉月さんの立場だったとしても打ち明けるなんて多分できないと思う。

もしかしたら、同じようにどこまでも逃げ続けるかもしれない。


その弱さこそが、人間の人間たる証であることを、なんとなく、理解してしまったから。


オレよりもずっとずっと大人である兄貴には、悲痛なほど強く伝わっているのだろう。



『どうして何も話してくれなかったんだ』そう思いながら一方では『どうして気づいてやれなかったんだ』



と毎年彼女の命日に墓前で何時間も自問を繰り返し、その度に悲しい咎を増幅させ続けている。




ーー7年経った今でも、尚。