翌々日、部屋から出てきた兄貴は親父に『葉月の墓に連れて行って欲しい』と頼んだ。


親父が運転する車でオレ達は彼女とその子供が永眠する墓地に到着し、初めて墓前に参った。


2時間くらいだろうか、兄貴はずっと地べたに座り込み、墓石に刻まれた文字を見つめていた。


微動だにせず、あまりにも長いことそうしていたので、親父と車の中で彼の様子を見守っていたオレは、兄貴がそのまま石像のように固まってしまうのではないかと本気で心配した。

車に戻ってきた兄貴は申し訳なさそうに微笑し、親父とオレにありがとう、と言った。


『ありがとう、父さん、愁路。心配かけてごめん。俺はもう大丈夫だから』



『大丈夫だから』



オレ達は彼のその言葉を信じるよりほかなかった。

だんだん口数も増え、徐々に笑顔を見せるようになった。


無事大学を卒業し、就職も決まって周囲の人間と何ら遜色のない人生を送れるようになった。