あの日葉月さんと行動をともにしていた『お友達』。


その人物とは、葉月さんが兄貴と出会う前に交際していた、いわゆる『元カレ』だった。


娘の遺品を整理していた葉月さんの両親が、パソコンのメールから発覚したこの事実を親父に打ち明けたのは、親としてのせめてもの罪滅ぼしだったのか。



メールは事故の前日まで頻繁にやりとりされており、結婚してからも密会を続けていたことを裏付けていた。


最後の文面には、こう綴られていたらしい。



『夫を裏切り続けるのは、もう耐えられない。苦しい。何処かへ連れて逃げて欲しい。あなたとの間にできた、この子と一緒に』



兄貴は長い沈黙の後、両手で顔を覆い、ただ一言だけ『どうして』と呻き、自室に閉じこもってしまった。



オレは兄貴の部屋の前で声を上げて泣いた。


多分、こんな風に手放しで慟哭できない兄貴の代わりに。



ひどいよ。

そんなの、いやだ。

二人はあんなに愛し合っていたじゃないか。誰もが羨む仲の良い夫婦だったじゃないか。

そんなの、あんまりだ。

兄ちゃんは葉月さんとお腹の子供をすごく大切にしていたのに。

元気に産まれて来る事を心から望んでいたのに。



ひどい。


ひどいよ、葉月さん。

どうして兄ちゃんを裏切ったんだーーー