オレを外に残し、病院の霊安室に入った兄貴は妻の変わり果てた姿を見た瞬間、一言も発さずに気を失ったらしい。


不安で不安で、病室のベッドに寝かされた兄貴にすがり付くオレに警察の人は分かりやすく言葉を選んで説明してくれた。



葉月さんは、『お友達』と一緒にタクシーで駅に向かっている途中、前を走っていた車のスリップ事故に巻き込まれ、おなかの子供とともに、命を落とした。



同乗していた『お友達』も、危篤状態で病院に運ばれたが一時間後に息を引き取った。






その『お友達』の正体を知ったのは、もっとずっと先のことで。


兄貴はあまりのショックの大きさに起き上がる事ができず、そのまま入院していたのでオレは訃報を聞いてアメリカから飛んで帰って来た親父に連れられて式に出席した。


この場にいる誰もが故人の死を悼み、悲しんでいるのにもかかわらず、オレはまだ実感が持てずにいた。


死というものを頭で理解できる年ではなかったのだ。


家に帰ったら葉月さんが笑顔で『愁路くん、お帰り』と出迎えてくれるような気がしていた。


そして何よりも兄貴に会いたかった。