ローチ達の死骸の臭いがここまで臭っているというのに、スミロドンはそちらには目もくれず、その眼を俺に向ける。

死肉に興味はないらしい。

彼らがお望みなのは新鮮な肉。

目の前で狼狽している、活きのいいエイプの肉…つまり俺だった。

牙を剥き出しにし、獰猛な唸り声を上げるスミロドン。

前傾姿勢となり、戦闘態勢をとる。

…迂闊には動けない。

目をそらすだけで奴は食らいかかってくるだろう。

背を向けるなんてもっての他だ。

ここですべきは先手を取る事ではなく、スミロドンの出方を窺う事。

同時に、俺は両手を大きく、高く上げて構える。

猛獣を相手にする時は、大きな構えを取る事が効果的だ。

動物は本能的に、自分より大型の相手は襲わない。

相手に、巨大な敵だと思わせる事が有効だった。