その返事は、当然ながらあるわけもなく…
「 傘、持っとらへんしなぁ。俺ん家すぐそこやねんけど、雨宿りしてきや。」
目の前の男はそんな事を言い出した。
「 はぁっ!?」
奴の言葉に思わず私は可愛げの欠片もない声が上がってしまった。…そして、次の瞬間には精一杯首を振った。
「 無理無理無理っ!!」
この男の家で雨宿りなんて、危険すぎる…。そんな私の様子を見て、奴はヘラリと笑う
「 えぇー、そんな精一杯否定せんでも、なんもせぇへんで…?」
「 ……。」
そんなことは言われなくても判っている。好きでもないくせに、思わせぶりな発言ばかりの奴のせいで、私のドキドキはもう在庫切れに近い…。これ以上なにかあったら、私がおかしくなりそうだった…。
「 帰る。ばいばい。」
その二言だけを早口で言い捨てて、私は降り止まない雨に構うことなく走り出した。
「 ちょっ!?待てやっ!!」
そんな私を、そう言いながら奴が追いかけて来た…。
…手首を掴まれて、あっさり捕まってしまった私。この大雨のなか、傘も差さずになにをやっているのだろう……
こんな安っぽい映画のワンシーンみたいなやり取りに、行き交う人々は、私たちを好奇の目で見ていた…。
「 離してよ馬鹿っ!!」
「 馬鹿はどっちやねん!?こんなにアピールしとんのに無視すんなや!!」
怒鳴る私に、奴が怒鳴り返した。