…どれくらい、そこでそうしていたのだろうか。

「 ……なんで、まだここに居んだよ。」
その場で立ち尽くしていたままの私に向かって、ふいに、そんな声が上がった。それは紛れもなく彼の声。 声のする方に振り向いてみれば、彼が立っていた…

( 帰ったんじゃなかったの…? )

そう思ったのが顔に出ていたのか、彼はすぐに口を開いた…

「 …傘、車に忘れてったから 」

そう言って、私に傘を差し出した。


「 あ、ありがと… 」
恥ずかしくて俯きながら、差し出された自分の傘を受け取った…。

「 ……やっぱ、お前はドジだよな。」
そう言って、彼はまた小さく笑った…

( …そう言う君は、相変わらずせっかちだよ…。)
私はそんな風に思った…。


「 …あのね、さっきの話なんだけど…… 」

「 いや、忘れていいって。」

私の言葉を遮る彼。

( やっぱりせっかちだ… )


「 …じゃあ、私が迷惑じゃないって、言ったら迷惑…?」


「 っ!?」

彼の驚いた顔が、街灯の明かりに照らされてよく見える…。



「 …まじで? 」

「 ……うん。」
そう答えた瞬間には、私は彼の腕の中に収められていた……。


 それからは、どちらからともなくキスを交わしていた。あの頃は恥ずかしくて出来なかったキス。…だけど、今のキスも、それは子供のような、ただ触れるだけの幼稚なキスだった……


「 …キス下手だね。」

私も人のこと言えないくらい下手だけど…、それでも彼の方は、今はもっと遊び慣れている印象だったから思わずそう言ってしまった……。

「 …悪かったな。つーか、それはお前のせいだよ。」

「 ……え? 」

彼が不貞腐れたように言った。

「 …言っただろ。"まだ好きだ" って…。別れてもお前のこと忘れられなかったし…… 」

そう言ったあと、彼は 照れたように小さく笑った…


 今夜、私はこんな恋をした……。



fin