今夜、
こんな恋をした…
【こんな恋】
雨上がりの、静かな夜。大きな水溜まりが残る道を、ちょっと荒っぽい運転の車が走る…。
私はその車に乗っていて、その助手席の窓から、街灯の明かりを反射して光る水溜まりをただ静かに眺めていた。
次々と過ぎ去っていく水溜まり。…すると、それふいに止まって、水溜まりは赤色に光った…。顔を上げて前を向けば、赤信号。
「 はぁ…、 ここの信号長いんだよな、」
となりで運転していた彼は憂鬱そうに、ため息混じりにそう呟いた。
彼は赤いままの信号機をじっと睨む。けれど、目の前の信号はまったく色を変える気配を見せなくて…、そして彼はもう一度ため息を零した。
……それから、ジャケットのポケットから煙草を取り出してそれを口に咥えた…。
( 煙草、吸うんだ… )
となりでその様子を見ていた私は、ぼんやりとそんな事を考えた。
…私は、この彼のことをなにも知らない。なにも知らないけれど…、遠い昔、 彼の恋人が私だったことを、私は知っている……。
それは…"元カレ"と、呼べるのかも危ういくらいに、小さな小さな関係だった。
中学1年生の時、たまたま席がとなりになって、気が合って…「付き合おうか」と、どちらからともなく始まった関係だった。
けれど幼かった私と彼は、お互いを意識し過ぎてしまって、"付き合う"ってことが、なんだか恥ずかしく思えてしまって、すぐに別れてしまった…。
…それからは、なんだか気まずくて、お互い無意識に避けてしまっていた。
そんな、未熟な可愛い初恋……。