どうせ明日には、なんで休日にこんな陰鬱な女と出掛けなきゃいけないのか、なんて約束したこと後悔するくせに。会社に行って二度と帰ってこなければいいのよ。そう思ったが、黙っていた。


「今日は尚子にどうしても見せたいものがあるんだ。それはもう、ここにある。開けてくれ。頼むよ。」

私は答えない。もうあなたの顔も見たくないの。自分の唾を飲み込む音が大きく聞こえた。


夫の口調が変わる。

「じゃあ言っちゃうよ、あれ。言っちゃうよ。いいのかな?そうすれば君は、扉を開けるしかないだろう?いいから早く開けなさい。」


それだけは、ねえ、言わないで。お願いだから。

そう言おうとした瞬間にはもう、彼は冷酷にもそれを口にしていた。



「開け、ゴマ」


彼はゆっくりと、そう言い放った。私の血を流れるアラビアン魂が一斉に呼応し、電流のように私を貫く。私は静かに、夢見心地で扉を開けた。そこには、額に肉と書かれ、吉野家のビニール袋を提げた夫が、サディステックににやけ、私を見下ろしていた。


「やっと開けてくれたな。ほうら、似合ってるだろ?キン肉マンだぞーう。」

私ははっと我にかえり、夫を廊下に突き飛ばして扉にカギをかけた。夫は腰を強く打ち、ゾンビのようにうめいていたが、やがてそのままいびきをたてて眠りだした。

てゆうか、なぜキン肉マン?思い出し笑いで、私はその日結局一睡もできなかった。


(了)



※ 山田田町先生の次回作「哀しみのバルス」にもご期待下さい。