私たちが家庭内別居するようになって、2ヶ月。

特別な理由はない。結婚して3年経ち、熱情のままに求め合う時間は過ぎた。お互いが別の人生の可能性があったことを感じていた。両親が子供を待望していたのに、ちっとも妊娠しなかったこともある。だって生殖行動としてのセックスは、とても尊大で、退屈なものだったから。

元々すれ違いがちな生活だったから、明示的に離別する事に戸惑いはなかった。私は思う、特別な理由がないことこそ、致命的だったんだと。


23時過ぎ、ドアを開ける音がした。帰ってきた、そう思って私はぎゅうと布団をたぐり寄せる。こんな生活になって以来私は、夫が帰ってくる度、ひどく不安な気持ちになる。

すぐに鳴り始めるリビングからの内線を、仕方なく取る。今日あった夫の退屈なシーン。部長が嫁を生協の宅配員に寝とられ入院したこと、エレベーターで居合わせた派遣さんがやたら巨乳で一同目が釘付けになったこと。今日の和幸のチキンカツ弁当は衣がカリカリで昨日のよりもよかったこと。

くだらない。そんな夫の変に女性的なおしゃべりも私は好きになれなかった。ネクタイを外す、ネクタイとワイシャツと擦れる音が受話器と扉ごしのリビング、両方から聞こえる。私はもう寝ると言い、電話を切った。


満ち足りない夫はすぐに私の部屋をノックする。いつもそうだ、酒を飲んだ時だけ甘えたがる。何も変わってない、はじめて会った時から、ずっと。私は絶望的な気持ちになる。


「明日土曜だしさ、どこか一緒に行こうよ。動物園とかさ、明日天気もいいからきっと楽しいよ。なあ、行こうよ。」