はじめて会ったとき、彼女は久宝留理子と名乗った。

彼女は久宝留理子ではないのかもしれない。控えめに言って大人びた中学生のような顔をしている彼女が久宝留理子を知っているとも思えなかったが、まぁどこかで知ったのだろう。とにかく名前なんて何の意味もないのだ。少なくとも僕と彼女の間では。やれやれ。

もし不穏な空気を察知した人向けの注釈。この先に鼠とかジェイズ・バーとかは出てこない。ピンボールの名機であるスペースシップやら、ぐだぐだ説明しなきゃいけない必然性が分からないフィッツジェラルドも出てこない。お前はこれまでに吸ったタバコの本数を覚えているのか。僕は何かの話でそんな事を言った記憶もある。でももう忘れた。


僕と久宝留理子はホテルのバーにいる。何か頼みなさい、と命じると、彼女はフォンダンショコラを頼んだ。僕はこの店で25メートルプール一杯を満たすほどの量のビールを飲み、店の床いっぱいに5センチの厚さに殻を撒き散らすほどのピーナッツを食べていた。


「子供が吐き出す膿がたくさんでてくるの、不思議でしょ。体が膿でできてると思うくらい。」

「私の記憶や思い出、私を構成している何もかもが膿として流れて消えていくの。私は私の子供に飲み込まれ、全て膿になってそのまま溶けてしまう。私はこの世から消えるのよ、精神が消えて、それから肉体が消える。分かる?」