ひっぱたかれた男の子はたじろぐもことなく、無言で私にフラフープを渡した。戸惑う私に男の子は「おねえちゃん、やってみて」と言った。どうして彼がそんな要求をするのかわからなかったが、その子をひっぱたいた私は断ることもできなかった。もう一度彼らがみじめな顔で私を眺めてくれるのなら、今この状況よりもどれだけ幸福なことだろう。


フラフープは回った。平静を取り戻した私は、体が軽くなっていることに気付いた。私のフラフープは空中を舞い続けた。フラフープの回転は私をこのまま空まで飛ばしてくれそうな気がした。子供は歓声をあげ、私を迎えてくれた。私は満ち足りた気持ちになり、子供の頃の空白を取り戻すように、夢中で子供たちと遊んだ。


子供たちと手をつないでの帰り道、近所のおじさんが甘酒を振舞っていた。私は気が大きくなって、子供は飲んじゃだめなのよっていいながら甘酒を受け取り、それを飲んだ。普段お酒を全く飲まない私だけど、甘酒は私を優しく受け入れてくれた。子供は憧れの目で私を見ていた。私ははじめて大人になれたような気がした。



子供たちと別れ、家に帰る途中気づいた。夕日が照らすはずの影が、私にはなかった。男の子に引き剥がされたまま、置き忘れてきたのだ。

あわてて取りに帰ったとき、巫女さんが落ち葉と一緒に私の影を焼いていた。もう影は跡形もなくなり、焼かれた後の煙だけがそこに立ち上るだけだった。私は呆然とそこに立ち尽くした。影は、きっと、私の大部分だったから。


でも、もう悲しくはなれなかった。メソメソとは泣けず、涙がただ流れるだけだった。