泣き出す前に家に入りたい。



樹にこんな情けない自分を見られたくない。



それなのに樹に抱きしめられた。



「悪い」



樹が悪いわけじゃないのに、謝らなくてもいいのに。



「だから泣くなよ」



でも、涙は止まらない。



涙が出すぎて鼻も詰まってきちゃって、静かな空間にあたしが鼻をすする音だけが聞こえる。



謝ってほしいわけじゃない。



今のあたしには何も言えないから。



「俺も昨日の朝、引っ越すこと言われたんだ」


「……そうなの?」


「あぁ。だけど拓海が昨日奈緒に告るっつうから、俺は明日告るって言ってやった」


「だから?」


「何が?」


「気持ち伝えないで後悔したくないって。あたしを突然呼び出して告白したの?」


「あぁ」



引っ越しのことが……あったから。



引っ越したら気持ち伝えられなくなっちゃうから、今日あたしを呼び出したってこと……。



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