やっと掴んだこの恋を簡単には手放したくなかったの。
些細なことでもケンカすることだけは嫌だったの。
樹に飽きられたくなかった。
すると、ズボンのポケットからタバコを取り出した樹は、その中の1本に火をつけタバコを吸った。
樹が吐き出した煙は天井へ昇っていき、あたしはただそれを眺めてた。
樹は落ちそうな灰をテーブルにたまたま置いてあった灰皿に落として、
「誤解するわけねぇだろ」
優しい声でそう言った。
「拓海はてっきりお前のこと諦めたと思ってたからびっくりしたけど、」
「……」
「お前が拓海を好きだとか、少しも思ったことはねぇ」
そしてまた樹はタバコをくわえて吸う。
「お前が好きなのは誰だよ」
樹は今度はチラッと横に座るあたしを見た。
そんなの決まってるじゃない。
小さい頃から変わらないもん。
ずっと想い続けてきた。
あたしが好きなのは……樹に決まってるじゃない。
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