拓海くんの声だけが、あたしの耳にはハッキリと聞こえる。
その他の音は、ほとんど聞こえない。
「奈緒ちゃんだけだよ。俺が唯一優しくする女の子は」
「……」
「奈緒ちゃんだから、俺は優しくできるんだよ」
拓海くんのその言葉に、胸の奥がチクンと痛んだ。
どうしても答えられないその言葉に、何とも言い様のない気持ちで心がいっぱいになった。
「でもね、やっぱり拓海くんは優しい人だと思う」
だけど、それだけは心から言える。
「ほんとに優しい人じゃなきゃ、あたし1人にだって優しくできないよ」
「……」
「拓海くんには、あたしなんかよりもっと良い人がお似合いだと思う」
「……」
「きっとこれから拓海くんに合う人が現れて、拓海くんを信じさせてくれると………」
………それ以上あたしが言葉にできなかったのは、拓海くんが突然キスをしてきたからで。
持ってたお茶を4個とも全部落としてしまった。
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