さっきまでサッカーをしていた人に投げられたボールを受け取った樹に、あたしは話しかけようとした。
…………が。
「お、もしかして佐々木奈緒ちゃんじゃね?」
案の定、渡り廊下の真ん中に座っていた樹に近づくには、
あたしが立っている方にいる不良くんたちの前を、通らないといけなかったわけで……。
通ろうと、右足を不良くんの前に出したところ、ご丁寧にフルネームを言われてしまった。
その不良くんがあたしの存在を近くにいた不良たちに知らせてしまったため、
「今日も女の子らしいねぇ!まじ癒されるよ!」
「あの子はいないの?ほら、モデルやってる紫音ちゃん」
「樹に用だろー?また来たんだぁ」
一気にあたしに話しかけてきた。
あたしは男が基本的に苦手で、特にこうやって女に慣れた感じで話しかける男は目を合わせることすら難しい。
それなのに、同時に何人もが話しかけてくるから………樹に自転車の鍵を返してもらうのを諦めようとさえ思った。
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