私の王子様-社長【完】






「俺こそごめん」


「へ?」




どうして陽が謝るのだろうか?


陽は全然悪くない。


悪いのは私なのに。



陽は黙ったままごはんを食べ終えると食器をもって立ちあがった。


その顔はどこか切なくて苦しそうだった。



私がこんな顔させてるの?


陽…そうなの?



私はそのことで胸が一杯ですごく苦しくなった。



よっぽど陽にとって私の言葉は重かったんだと思う。


そして思いっきり傷ついた。



謝っても許せるようなことじゃなかったんだ。


私は言ったことをものすごく後悔した。


過去には戻れないってことを誰よりも理解してるはずだったのに…









そのあと陽は私に話しかけることなく私たちの部屋に入っていった。




「はぁ~」




大きなため息がこぼれる。




「本当に私って…」




“生まれてこなければよかった”



心からそう思った。


私といるとみんなが不幸になる。



私は全く陽のことを知らない。


いや、知ろうとしなかった。


陽は私のことをあんなに知ろうとしてくれてたのに…


そんな私が陽を傷つけた。


そんなことあってはいけないのに…



それに仕事だって、社長なら本当は夜遅くまで仕事なはずだ。


きっと私のために早く帰ってきてくれてるんだと思う。


そうか…あのとき見たのは仕事をしてる陽だったんだ。








私は一度だけ真夜中に目が覚めた時がある。


その時に横で眠っているはずの陽の姿がないことに気付いた。


不審に思ってドアを開けるとリビングで陽がパソコンをいじっている姿が見えた。


こんな夜中に何やってるんだろう?


と思ったものの私は睡魔には勝てずまた眠ったのだ。



きっと毎日そんな感じだったんだと思う。


朝も私のために送ってくれて、私につくしてくれてた。




「馬鹿…」




これは陽に対してなのに自分に対してなのか…


いや、どっちにも言っていたのかもしれない。



私はとりあえずご飯を食べ陽にどうやって許してもらおうか考えることにした。


いつも元気な陽が元気じゃないのはつらいから…



元気?


いつも本当に元気なの?


本当は疲れてるのにいつも無理して笑ってくれてたんじゃないの?



きっとそうなんだ…


私はそう思った。








そしてその日私は陽と何も話さないまま眠りについた。


結局どうするかなんて決まらなくて朝が来るのが怖かった。


陽とこれから一生話せないんじゃないかって…


そう考えただけでなぜか怖くて泣きそうだった。



私はいつものように起きてリビングに行くと




「おはよう」




いつもそう言って私にさわやかな笑顔を向ける人はいなかった。


テーブルの上にはメモが置いてあって




しばらく送っていけない。
ごめんな…






綺麗な文字でそう書いてあった。




「避けてるんだ…」




私の中で何かが崩れていく音が聞こえた。


そして、その言葉が私の胸を締め付けていた。







その後私はご飯を食べる気にはなれず着替えて学校に向かった。




「おはよう真」




教室に着くとすぐに百合-ユリ-が私のところに来た。


この子は私と同じクラスの西條百合。


一般的に言うとお嬢様の類にあたいする。


ひょんなことからよく話すようになった。




「今日は歩いてきたんだね?」


「まぁね…」




ちなみに百合は私と陽のことを知っている。


たまに私の愚痴を聞いてもらっているからね…




「元気ないね?」


「陽と喧嘩しちゃってね…」




そんな会話をしていると




『陽って誰~?』




のんきすぎる声が聞こえてきた。








「なんのこと城ケ崎君?」


「もう俺のことは達也って呼んでって言ってるじゃん」


「はいはい…で、達也君どうかしました?」




この人は城ケ崎達也-ジョウガサキタツヤ-


一応私と同じクラスで入学式以来よく話しかけてくる。




「おはよう達也君!!」


「おはよう百合ちゃん。今日も可愛いね」


「もう達也君ってば!」




百合が目を輝かせながら達也君にあいさつをする。


まぁイケメン好きの百合ならしょうがないのかもしれない。


そうこいつは属に言うイケメンというやつ。


学校一って言われるくらいね…


しかも特進クラスだから頭もいい。


こりゃモテるわけだ。


私は好きじゃないけど…


こういうタラシッぽい人は昔から苦手。








「そんで陽って誰なの?」


「達也君には関係ないでしょ?」




そう言って私は自分の席に戻ろうとするのだけれど


達也君がそれを阻止した。




「ねぇ、教えてよ?」




少しうるんだ目で私を見る。


そんな顔されてもな…


私はしょうがないと思い




「わかった。教えるからそんな顔しないで」




達也君に教えることにした。




「やった!ここじゃあれだしさ屋上いかない?」


「いいけど授業は?」


「さぼろ?」


「はぁ…」




さぼるという言葉に少しためらいを感じたもののたまにはいいかと思い私たちは屋上に向かった。


一応言っとくと百合は置いてきた。









「で陽って誰?」




私は陽のことを簡単に話した。


同居するいきさつまではあまり話さなかったけど…




「真って意外と大変なんだな?」


「意外って何よ?」




あんたが私の何を知ってるの?


今の話だって別に大変な要素一つもないじゃない。




「その話さ…本当はそれだけじゃないんだろ?」


「え…?」




達也君の問いに戸惑う私。


確かにこれだけではない…


はっきり言って今言ったことはほんの一部だ。




「すごく悲しそうな目してるもん」




そう言って私の目を見る達也君。



不覚にもドキっとしてしまった。









あぁ何度目だろ?


こんな風にドキッとするのは…


それに、百合や達也君とのように他人と話すのも…


中学校じゃありえなかった光景。


すべて陽のせいなんだ…


いや、陽のおかげ?


私はこうなることを昔から望んでいたのかな?




「真…?」




気づくと達也君が私の顔を覗き込むように見ていた。




「あっ///」




その距離が近くて私の顔が赤くなる。




「どうしたの?」


「な、なんでもない」



そう言って顔を伏せる。


今の顔、誰にも見せられないよ…




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