私の王子様-社長【完】






そして陽はもう一度口を開く。




『俺のこと嫌い?』




“嫌い”




そう聞かれ戸惑う私。


さっきまでの私なら嫌いって言えたけど…


あんな優しく抱きしめてもらった後。


今の私には嫌いという選択肢はなかった。




「き、嫌いじゃないけど…」


「じゃあ、好き?」


「す、好きなわけないでしょ!」




私が陽を好き?


そんなことあるはずがない。


というか、そんなことあってはいけない…



でも、はっきり言って今の私には陽を好きにならないという自信はなかった。


ちょっと優しくされただけで私の心は揺らいでいる。


私って意外と単純なのかもしれない…












「ふ~ん…」


「な、何よ?!」


「絶対、真は俺のこと好きになると思うな…」


「はぁ?!」




前言撤回。


こんな男嫌いです。


何よそのナルシストぶりは?


私が絶対好きになる?


ありえませんから!!




「じゃぁ賭ける?」


「何を?」


「真が俺を好きになるかどうか…」


「なんでそんなのに賭けなきゃいけないのよ?!」



いきなりの賭けにまた動揺する私。


こんな賭けしてどうなるって言うのよ…


私はいつものように陽を睨んでやった。








「自信ないんだ~」




子供のように私を挑発する陽。


そんなのに乗ってたまりますか!!



私は陽を無視してご飯を食べる。




「ほら、やっぱり自信ないんじゃん。好きにならないなら別に賭けに乗ったっていいでしょ?俺の負けは見えてるんだから」


「私が勝つってわかってるんだったら意味ないでしょ?!」


「意味はあるよ?」


「はぁ~?」




私の怒りはかなりのところまで来ていた。


もう爆発寸前…




「わかったわよ!!そのかわり勝ったらなんでも言うこと聞いてよね!!」


「もし俺が勝ったら言うこと聞けよ?」


「ふん!負けなんてありえないけどいいわよ?」


「期間は2か月ね。2か月たつまでに真が俺のこと好きにならなかったら言うことも聞くし、ここを出ていってもいいから…」


「OK」




そして私たちは再び夕食を食べ始める。


聞きたかったことはすべて聞けなかった…








あの日からあっという間に1週間がたった。


陽のことを好きにはならないと言いながらも


なぜか意識してしまっている自分がいた。




「私…何やってるんだろ?」




意識しちゃいけないと思うと余計に意識するところが


人間の悪いところだと思う。



それにあの日から陽のボディタッチが増えてきた。


夜も安心して寝れやしない。


私は陽から離れて寝るようになった。



そして陽の仕事もわからずじまい。


やっぱりそこだけは気になる。




「今日聞いてみるか…」




さっさと聞けばよかったものを、あの日から自分から話しかけたくない


という気持ちが邪魔をしてなかなか聞けなかったのだ。








「ただいま」




時刻は8時いつも通りの時間に陽は帰って来た。




「お、お帰り」


「おう、ご飯できてる?」




背広を脱ぎながら私に聞く。




「当たり前でしょ」




私はその背広を一応受け取りながら答える。


これじゃまるで夫婦。


だけどこれが普通になりつつあるわけで…


そこが悩みだったりする。




「食べようか」


「うん」




そしていつものようにご飯を食べ始める。


私はちらちら陽の様子をうかがう。




「うまいな」




その一言にほっとする。


じつは私がちらちら見ているのは料理が陽の口に合うかちょっと心配だから。


陽はお坊ちゃんだし私とは好みが違いそうだし…


これじゃ彼氏に初めて料理を作ってあげる彼女みたいでいやなんだけど


料理をおいしいって食べてもらうのって悪いことじゃないなと


陽に教えてもらった。







「当たり前でしょ」




陽の一言にこう言って返すのも日課になりつつある。


私って…可愛くないな。


この時ばかりはいつもそう思ってしまう。


せっかく褒めてもらってるんだから素直にありがとうぐらい言えばいいのに…




「素直じゃないな~」




そうしたらこうやって陽にからかわれることだってないのに…




「別に!!」


「もう照れちゃって。俺のこと少しは好きになった?」


「どっからそんな言葉が出てくるのよ?」


「照れるってことは好きの表れなんだぞ?」




そういうものなの?


でも別に私は陽が好きとかじゃない。




「だから照れてません!!」




私はこれ以上いろいろ言い返すとめんどくさいことになりそうだと思いそう言ってその会話を終わらせた。







「それより…」


「何?」




そうそう私には聞かなきゃいけないことがあった。


陽のせいでまた忘れるところだった。




「聞きたいことあるんだけど?」


「うん」




陽は何だろうって顔でこちらを見る。




「あのさ…陽って何の仕事してるの?」


「へ?」


「だから仕事!!」




陽は私の質問に軽く驚いているようだった。




「俺…言ってなかったっけ?」




言ったつもりだったのか…




「うん」


「何って…社長?」


「そうなんだ。社長ねぇ…社長、しゃちょ…しゃ、社長?!」


「真って反応遅いのな…」




そう言って明らかに笑いをこらえている様子。


そんな、面白がらなくてもいいじゃない!!







「それより!社長ってどこの?」




相沢家と言えばいろんな会社もってるし陽が社長しててもおかしいことはない。


でも27歳でいったいどんな会社の社長をやっているのかは気になるところだった。




「う~んと、相沢グループの本社?」




疑問形?


てか本社?


一体どういうことなの?!



私は陽の言ってる意味がよくわからなくてかなり混乱していた。




「要するに、相沢グループで2番目に偉いってこと。ちなみに1番は親父な…」


「それはわかりやすいんだけど…陽ってもしかして年ごまかしてる?」


「お前何言ってんの?」




陽が変なものでも見るような目で私を見ている。


そりゃそうだよな。


いきなり



“年ごまかしてる?”



とか聞かれてもね…


でも27でそんな偉いって小説の中だけじゃないの?


これも小説だろ!!


とか言っちゃったら終わっちゃうからそこは流してね(笑)








「だって27歳であの会社の社長っておかしくない?」




私は素直にそう言った。


それが陽には気にくわなかったらしい。


いや、気にくわないのは当たり前のはずなんだ。



そして陽は軽く眉を吊り上げ低い声で




「別に年とか関係ないだろ…」




そう言った。



その瞬間、心がズキっとした。



そうだよね…


年なんて関係ない。


陽だって頑張って仕事してるんだし…


私ってば何言ってるんだろ。




「ごめん」




さすがの私もこれにはすぐに謝った。


きっと陽だって重荷に感じてるはずだ。


27歳であんな大きな会社を任せられてるんだから…



それを考えると私はさらに心が痛んだ。