私と陽が言われた通り部屋に入ると
男の人は
「それじゃ、僕は少し出てきますね」
そう言ってそのままマンションから出ていってしまった。
「お邪魔するか」
「う、うん…」
ついに来る。
約2か月ぶり?
もう一度会う日が来るなんて考えもしなかった。
会う日が来たとしてもそれが2か月ほどでやってくるとは…
「怖いか?」
私は黙って首を横に振る。
怖くないと言ったら嘘になるかもしれない。
でも、会わなきゃいけないような気がした。
「私の手…離さないでね?」
さっき陽から握られた手を今度は私がギュッと握る。
「あぁ…」
そして私たちはゆっくりとリビングへと向かっていった。
そして私たちがリビングに行くと
目の前にはソファーに座っているお母さんの姿があった。
そして私の顔を見て驚いた顔をする。
「相沢さんだけじゃなかったんですね」
冷たい声でそう言うお母さん。
お母さんには私が来ることを伝えていなかったのだろうか?
「すみません勝手に。でもあのままじゃいけない気がしたので」
「別にかまいません。私にはとにかく言う資格はありませんから…どうぞ座ってください」
私たちは向かい側のソファーにそのまま腰をかけた。
「今日は何の用件でしょうか?」
「真…真さんと話をしてほしいんです」
そう言った陽はお母さんの顔を見た後、私の顔を見てニコッと笑った。
なんでそこで笑うのか私にはわからないけど
少しでも緊張をほぐしてくれようとしていたからだと思う。
「私には話すことなんかありません…こんな子…」
こんな子…
そう言われて次に思いつく言葉は
「いなくなってせいせいしてるんですから」
予想通りの言葉だった。
でも私はこれくらいじゃ傷つかない。
これぐらいで傷ついちゃいけないんだ。
でも、私はこのあと衝撃の事実を知ることになる。
「相沢さんには話していませんでしたよね?」
「何をでしょうか?」
「夫が…この子の父親が死んだ理由」
「交通事故だと伺っていましたが違うんですか?」
私も交通事故だと言うことは覚えている。
お母さんは一体何が言いたいんだろう?
そしてついにその事実が明かされる。
「この子が…」
「真さんが?」
この次の言葉を誰が予想できただろう
『この子があの人を殺したのよ!』
まさか父親を殺したのが自分だなんて…
私は人殺し。
しかも父親を殺した。
言葉の意味は分かっているけど私の頭はついていかない。
「ほんっ・・・と?」
嘘だと言ってほしい。
嘘だと冗談だと言ってほしい。
「だから…だからあなたが嫌いなの!あの人の命を奪っておいて何も覚えていないあなたが!」
そうか…
今わかったよお母さん。
私はお父さんの事故の記憶はない。
だけどそれが私のせいだとしたら、お母さんが嫌いになるのは当然だよね。
そんな大事な記憶を忘れるなんて…
私…
私!!
「真…」
その声にハッとする私。
陽の顔を見るといたって冷静でどうしたらそんなに冷静でいられるのかわからない。
「真さんが…お父さんを殺したとはどういうことですか?」
私が聞きたいことを陽は全部聞いてくれる。
「この子の父親はこの子が事故にあいそうなのを助けて死んだんです」
なぜだろう…
頭がズキズキする。
「だから真さんが嫌いだと?」
「そうです!この子は何もかも忘れて…どうしてあの人が死ななきゃいけなかったんですか?」
それじゃまるで私が死ねばよかったみたいじゃん。
また、頭がズキッと痛む。
その痛みは増す一方で、その痛みに必死で耐える。
「それだけで真さんをあんなに苦しませたんですか?いや今でも真さんは苦しんでいます。お願いです。もう真さんを責めるのはやめてください」
「だったら今日はどうして連れてきたんですか?!この子がいなかったらこんなこと…」
「でも僕は真とお母さんに仲直りしてもらいたい」
さん付けを忘れて呼び捨てで呼ぶ陽。
私のせいで陽とお母さんが言い争ってる…
私のせいで…
私の…
その瞬間頭痛がさらに激しくなり
バタンッ
私は気づくと床に倒れ意識を失っていた。