私の王子様-社長【完】






「社長?」




おっといけない…


仕事に私情をはさむなんて


やっぱり重傷だ。




「すまない…もう一度頼む」




そう言ってもう一度説明をしてもらい


俺の会社での一日がスタートする。



仕事を始めると忙しさに追われ


真のことも考えずにすむ。



それが俺の帰りの遅い理由でもあった。


仕事を始めると自分の世界に入ってしまうため


時間を気にしなくなる。



そのせいか気づくと時刻は10時過ぎ…


俺って仕事馬鹿なんだろうか?








だからほら…




「社長…」


「しゃ…」


『社長!!』




ビクッ




せっかく仕事が早く終わったというのに


こうやって秘書に呼ばれない限りはこっちの世界にはもでってこない。




「今何時だ?」


「6時過ぎです」




それを聞いてほっとする。


これなら十分早く帰れる。



俺は荷物を準備し




「じゃあおつかれ…」




そう言って社長室を後にした。









なぁ…



俺は言葉で表せないくらいお前を



愛してる。




でも、どうして伝わらないのかな?



はやく俺の気持ちに気づいて?




愛してる…



それしか言えなくなるくらい



本当に



『愛してる…』










ご機嫌のよろしくなかった朝とは打って変わって


大変機嫌のよい月曜の夕方。


さっき陽からメールがあって今日は早く帰れるらしい。


しかも何か食べに行くぞとのお誘い。


それがなんだか嬉しくてたまらなかった。



でも、その割には顔はいつもと同じ仏頂面。


そろそろこんな顔からも卒業したいものだ…



まだ当分卒業は無理そうだけど…




「まだかな~」




そして自然と出てしまうこの言葉。


陽の帰りをこんなにも待ち遠しいと思うのは


やっぱり恋しているせいなのだろうか?










ガチャ




リビングのドアの開く音がして




『ただいま』




という愛しい人の声が聞こえる。


私は軽く跳びはね陽のところに向かった。




「お帰り…」


「ただいま」




いつものように陽のスーツの上着を受け取りハンガーにかける。


そして陽もいつものようにネクタイを緩め


シャツのボタンを二つ開けソファーに座った。



そんな姿がかっこよくて私は思わず見とれてしまう。




「どうかした?」




じっと見つめる私に気付いた陽が怪しい目でこちらを見る。




「な、なんでもない//」




私は顔が一気に赤くなるのがわかり


その顔を隠すように寝室へと向かった。









そして、ベットにダイビング。


熱くなった顔を布団に押し付けて冷やす。




「はぁ~」




思わず出てしまう溜息。


陽を見ていると心が締め付けられてすごく苦しい。


嬉しいはずなのに…



私はグチャグチャな心の中を整理し


再びリビングへと向かった。



そして陽のためにコーヒーを淹れる。




「ありがと」




私のコーヒーを受け取った陽は


特に表情を変えることなく


少しずつコーヒーを口にしていく。



そんな一つ一つの動きにもまた


かっこいいと思う自分がいた。










「今日は何食べたい?」




私が答えられないことを知りながらも聞いてくるのはきっと


陽なりの優しさ。




「なんでもいいよ」




私はそっけなくそう答えた。


イタリアンが食べたい!!


とか可愛く言えたらいいんだろうけど


本当になんでもいい。



しいて言うならあまり高くないところがいい。


きっと無理だと思うから今は言わないけど。




「じゃあ、てきとうなところで食うか」


「うん、私着替えてくるね」




そう言って再び寝室に向かい着替えを済ませる。


見た目からは絶対にわからないというほど


私の心はルンルン気分だった。








着替えを済ませリビングに戻ると




「俺も着替えてくるわ」




と言って寝室に入っていく陽。


着替えてくるっていうことは


久しぶりに陽の私服が見れる。


それが私には嬉しかった。



陽は誰から見てもおしゃれだと思う。


というか、何を着ても似合う。


かっこいい人は何を着ても似合うとはこのことだろう。



そして着替えを済ませ出てきた陽。


今日はスーツほどびしっとした格好でもないが


高級そうなレストランに行くには十分な格好で


全体を黒でまとめていた。



黒が似合う陽はまた一段とかっこよく見えた。









そしてまた、今日も高級なレストランに行くのだということを


私に教えてくれた。


まぁ初めて出会った日に連れて行かれたレストランと同じようなところだろう。



陽は私が陽を見たまま固まっているのを見て




「なんだよ…見とれてんのか?」




そんなことを言う。




「なっ//そんなわけないでしょ!!」




そして私は必死に照れを隠しそっぽを向いた。




「素直じゃない…」


「別に…」




こんなやり取りでさえも嬉しく思える私はおかしいのだろうか?


ただ陽と話せるだけで幸せ。


いつか話すことさえ許されない日が来たとしたら


私はどうするのだろう?